医薬品製造における
外部接続という設計
規制は記録と権限を求めている。外部の事業者が保守に関わることも、織り込んでいる。しかし、どう接続するかは定めていない。だからそれは、設計の問題になる。
接続の方式だけが定められていない
GMP省令の第8条第2項と第20条第2項は、手順書等と記録の信頼性を、作成の時点から保管期間が満了するまで継続して確保することを求めています。施行通知は、この信頼性をいわゆるデータ・インテグリティと呼んでいます。
同じ省令の第11条の5は、外部委託業者について、適性と能力の確認、委託範囲と責任の文書による取決め、定期的な確認、そしてその記録を求めています。施行通知が委託しうる業務の例として挙げているのは、構造設備の清掃および保守、設備・器具の点検整備、計器の校正です。外部の事業者が製造設備の保守に関わることを、規制自身が織り込んでいます。
ところが、その事業者が設備へリモートで保守接続することを直接の対象とした国内の明示規定は、確認できません。接続してよいかどうかではなく、どう接続するかが、規制の名指しの外にあります。
方式が定められていないことは、自由であることを意味しない。何を満たすべきかは、別の条文がすでに定めている。
規制が求める四つの状態
接続の方式を定める条文はありません。しかし、接続の結果として満たされているべき状態は、すでに条文にあります。四つの要求を、外部からの接続という文脈に置き直します。それぞれに付けた印は、この先の構成図で再び現れます。
記録の信頼性を保管期間の満了まで継続的に確保する
接続に当てはめると ── 誰が、いつ、何に触れたかが、後から説明できる状態にあるか。
利用者ごとに権限を設定し不正アクセスを防ぎ記録を残す
接続に当てはめると ── 外部の担当者に、必要な範囲だけを、必要な期間だけ渡せるか。
記録の改変を防ぎ消失しないようバックアップする
接続に当てはめると ── 接続の記録そのものが、後から書き換えられない形で残るか。
データ・インテグリティに係る業務を定期的に自ら点検する
接続に当てはめると ── 一度整えて終わりではなく、点検のたびに状態を示せるか。
どこまで求められるかは一律ではありません。GMP事例集は、監査証跡、上書きおよび改ざんの防止、ユーザーごとの操作権限設定を要件を満たし得る機能として例示したうえで、その水準はデータの製品品質上の重要性やシステムの複雑さを考慮したリスクアセスメントによる、としています。
接続の手段が現場ごと、ベンダーごとに違うと、この四つを製造所全体としてまとめて説明できない。個別に正しくても、束ねたときに示せない。
正面から触れている文書
外部事業者の遠隔アクセスに正面から触れている文書はあります。PIC/S GMPガイドラインの Annex 11 は、その3.1で、第三者が遠隔アクセスを含む保守を行う場合に、正式な契約により責任を明確にすることを求めています。
第三者が遠隔アクセスを含む保守を行う場合に、正式な契約により責任を明確にすること
Annex 11 は省令そのものではありません。日本では、査察および国際整合上の参考文書として扱われます。法的義務の直接の根拠は、GMP省令と薬機法にあります。
あわせて、データ・インテグリティの確保についても、施行通知の逐条解説が PIC/S の PI 041 を参考文書として挙げています。
正式な契約により責任を明確にする。この要求を図にすると、担う側を分けることから始まります。
必要な相手に 必要な範囲を 必要な期間だけ
経路を常時開けておくのではなく、接続を三つの条件で限定し、その全体を証跡が支えます。外部の担当者から対象の設備までの一本の経路に、三つの関所と一枚の記録を置く構成です。
誰が
接続できる相手を、利用者ごとの権限として限定する。担当者単位で付与し、単位で取り消せる。
いつ
接続できる期間を限定する。常時の開放ではなく、必要なあいだだけ経路が存在する。
何に
接続できる対象を、設備単位で限定する。工場ネットワーク全体ではなく、当該設備だけに届く。
記録
三つの制御と、権限の付与・変更・取消し、接続の事実そのものが、記録として残る。三つの関所を通るすべてが、この一枚に落ちる。
製造所全体として説明できる形になる
この形を、四つの製品が一本の経路として実装します。
開発プロセスは IEC 62443-4-1 認証取得(TÜV)。IEC 62443-4-2 は第三者監査により準拠を実証しています。
製品が担うのは、リモートアクセスに関わる項目への対応を支援するところまでです。データ・インテグリティの確保は、リスクアセスメントと運用、定期的な自己点検を含む、製造所全体の取り組みによります。
装置を納める側の備え
ここまでは製造所の側の話でした。装置を納める貴社から見ると、同じ規制は別の顔をしています。納入先の製造所は、GMP省令第11条の5のもとで、外部委託業者としての貴社を管理する立場にあります。
接続の方式を、権限と記録を伴った説明できる形であらかじめ用意しておけば、納入先はその確認に貴社の説明を重ねるだけで済みます。取決めに応えられる形を持つことが、納入先の負担を増やさない保守につながります。
- 委託範囲と責任の文書による取決め
- 定期的な確認
- それらの記録
よくある質問
GMP省令はリモートアクセスについて何か定めているか。
外部事業者のリモート保守接続を直接の対象とした国内の明示規定は、確認できません。一方で、記録の信頼性の継続的な確保(第8条第2項・第20条第2項)や、利用者ごとのアクセス権限設定と不正アクセスの防止(コンピュータ化システム適正管理ガイドライン6.4)など、接続の結果として満たされているべき状態は定められています。
設備メーカーが保守のために接続することは認められるか。
施行通知は、外部へ委託しうる業務の例として、構造設備の保守や設備・器具の点検整備を挙げています。そのうえで GMP省令第11条の5は、委託範囲と責任の文書による取決め、定期的な確認、その記録を求めています。接続の方式そのものは定められていないため、取決めのなかで説明できる形にしておくことが要点になります。
PIC/S の Annex 11 は日本でも守る必要があるか。
日本では、Annex 11 は省令そのものではなく、査察および国際整合上の参考文書として扱われます。法的義務の直接の根拠は、GMP省令と薬機法にあります。そのうえで Annex 11 の3.1は、第三者が遠隔アクセスを含む保守を行う場合に、正式な契約により責任を明確にすることを求めており、実務上の参照点になります。
接続の記録はどれくらい保存すればよいか。
接続記録の保存年数を包括的に定めた国内の明文は、確認できません。GMP省令は、記録の信頼性を保管期間が満了するまで継続的に確保することを求めており、どこまで必要かはデータの製品品質上の重要性やシステムの複雑さを考慮したリスクアセスメントによる、とされています。年数の断定ではなく、根拠を持った設定が求められます。
EUのNIS2指令は日本の工場にも適用されるか。
NIS2 は EU の指令であり、日本国内の工場に直接適用されることを示す根拠は確認できません。日本の医薬品製造における法的義務の直接の根拠は、GMP省令と薬機法にあります。